新茶は、その年の最初の新芽を摘み取ってつくられたお茶のことです。お茶の木が秋から冬にかけて蓄えた栄養をたっぷり含み、一年で一番美味しいお茶として昔から大切にされてきました。
こうした新茶について、「なぜ新茶は美味しいのだろう」「新茶の効能・メリットは何だろう」と不思議に思った人は、多いのではないのでしょうか。
縁結びの街「出雲」のお茶屋・茶三代一(ちゃさんだい)です。今回は、新茶の効能・メリットのほか、新茶の時期が短い科学的な理由を解説します。新茶シーズンにちなみ、島根県内の主要な銘柄、産地についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
新茶の定義
新茶は、その年に最初に収穫した新芽を使い、春に生産されるお茶のことです。
新茶の生産が始まるのは、毎年4月上旬ごろです。新芽の摘み取りが早い鹿児島などの温暖な地域から始まり、桜前線と同じように北上していきます。
なお、お茶は新茶シーズンを含め、年4回ほど生産されます。
生産した順番に一番茶、二番茶、三番茶と呼んでいくのですが、新茶は一年で最初に摘まれることから、一番茶と呼ばれています。
なぜ新茶は香り高い?
新茶の香りが特に際立っているのは、茶葉に含まれる香り成分が、春から初夏へと季節が移り変わる中で、最も多くなるからです。
代表的な香り成分は、心落ち着くフローラル調のリナロールや、ローズ香を有するゲラ二オールがあります(注1)
また、爽やかさや力強さを感じさせる青葉アルコールも新茶の香りの主体となっています。
新茶の効能・メリットとは
新茶の効能・メリットは、主に下記の3つがあります。
・カテキン、カフェインの含有量が少ない
・テアニンの含有量が多い
・新茶特有の香気成分が含まれる。
それぞれの効能、メリットについて詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
カテキンの含有量が少ない
新茶は渋みや苦味を感じるカテキンの含有量が、二番茶や三番茶などと比べて、少ないと言われています。
これは、茶葉の新芽は紫外線にあたる時間が短いことから、旨味や甘味の成分であるテアニンがカテキンに変化しないためです。
ただし、カテキンは、体に有害というわけではありません。
強い抗酸化作用や殺菌・抗菌作用を持つことから、生活習慣病や肥満を予防し、細菌やウイルスから体を守る効果があります。
しかし、カテキンは、苦味成分を持つ抗酸化物質「ポリフェノール」に分類されるため、苦味を感じてしまうのです。
また、新茶は、同じく苦味成分のカフェインの含有量が少ないとされています。
テアニンの含有量が多い
前述の通り、新茶は、新芽の紫外線の蓄積量が少ないことから、テアニンの含有量が多いと言われています。
テアニンは、お茶やツバキ、サザンカのみに存在する特殊なアミノ酸です。
被覆して栽培した一番茶の含有量は2%におよぶと言われています(注1)。
テアニンの代表的な効能は、緊張や興奮を落ち着かせ、体や精神をリラックスさせる効果です。
また、テアニンを摂取すると、眠りの深い質の良い睡眠が取れるようになるほか、ストレス負荷による心拍数や血圧の上昇が抑制されるといわれています。
特有の香気成分が含まれる
香料の製造販売を手がける小川香料(東京都)が、良質な新茶(煎茶)の香気寄与成分をAEDAと呼ばれる芳香成分抽出分析で分析したところ、新茶の特徴的な香気は、グリーンな香調を有する4ーメルカプト-4-メチル-2-ペンタノン(MMP)によるものであることが判明しました(注2)。
同社の研究によると、MMPは、新茶に多く含まれ、製茶の最終工程である「火入れ」の加熱により生じると言います。
さらに、MMPの生成量は火入れの加熱条件や、製茶の初期工程での蒸熱の強弱に影響されるとのことです。
同社は、MMPは蒸熱が強まれば強まるほど、含有量が少なくなる一方、火入れ温度が適温より低い温度の場合、多く生成されるとしています。
新茶の時期が短い理由
新茶の時期は、4〜5月の2カ月ほどであり、非常に短いと言われています。
新茶の時期が短い理由は、プロピオンアルデヒドや、シス-2-ペンテン-1-オールなど、異臭を増やすお茶のオフ・フレーバー成分の増加スピードが非常に早いからです(注3)。
こうしたお茶のオフ・フレーバー成分の増加を抑える方法は限られています。
新茶の香気を長期間保存するためには、通常の冷蔵では難しく、超低温で貯蔵する以外に、オフ・フレーバー成分の増加を防ぐのは難しいとのことです。
また、食品の保存料とされる窒素ガスを封入したとしても、超低温で冷蔵しない限り、新茶の香気特性を維持できないといわれています。
島根県内の主要なお茶の銘柄、産地
最後に、新茶シーズンにちなみ、島根県内の主要なお茶の銘柄、産地について紹介します。
今回紹介するのは伯太茶・伯太番茶(安来市伯太町)と大東茶(雲南市大東町)、出雲茶(出雲市や松江市)の3つの銘柄、産地です。
伯太茶・伯太番茶(安来市伯太町)
伯太茶・伯太番茶は、生産量と栽培面積がともに島根県で一番を誇る安来市伯太地方で収穫されるお茶のことです。
いずれも、奥出雲の伯太川沿いの山麓で育てられる茶葉から作られており、口当たり柔らかな特徴を有します。
ただ、厳密に言うと、伯太茶は茶の若葉を使った煎茶、伯太番茶はつみ残りの硬くなった茶葉を使った番茶であるため、お茶の種類としては異なります。
新茶を味わいたい場合は、まろやかな喉ごしに加え、深い甘味とほのかな苦味を持つ伯太茶がおすすめです。
大東茶(雲南市大東町)
大東茶は、安永2(1773)年に、大名茶人として知られる松江藩主、松平治郷(不昧)の命を受けて、栽培が広まったお茶です。
味は、寒暖差が激しい厳しい環境で育った茶葉を使っていることから、甘みと渋みのバランスがよいほか、風味もしっかりしています。
出雲茶(出雲市や松江市)
出雲茶は、出雲市や松江市の周辺で生産されるお茶です。
爽やかな香りと甘味を持つ出雲茶の特徴は、出雲地方で栽培された茶葉だけを使用するという希少性の高さにあります。
複数の生産地の茶葉を混ぜることが多い他の県内銘柄と異なり、茶葉の純度が高いことから、雑味が少ないのです。
こうした特徴により、出雲茶は、新茶シーズンになると、県内のみならず、全国から注文が殺到すると言われています。
新茶シーズンを楽しもう
食べ物は、摘みたてや採れたての時期が最も美味しいとされます。鮮度が高く、食べ物に含まれる栄養素が豊富なためです。
これは、お茶でも同様です。新茶は、二番茶や三番茶では味わえないお茶の風味や旨味を堪能できるでしょう。
茶三代一では、今年も地元島根で栽培された有機煎茶の新茶を販売致します。摘採時期が少し遅めで5月下旬ころからの出荷となりますが、ご予約を承っておりますので、ぜひ一度召し上がってみてください。
参考文献:
(注1)高野實、谷本陽蔵、富田勲、中川致之、岩浅潔、寺本益英、山田新市(以上、執筆)、日本茶業中央会(監修)『新訂 緑茶の事典』柴田書店(2002年)
(注2)熊沢賢二、馬場良子「日本茶の香りに寄与する成分とその特性 古くて新しい話題、未勅的な日本茶の香り」『化学と生物』59巻6号、日本農芸化学会(2019年)、pp.337-339
(注3)原利男、久保田悦郎「新茶の香気特性とその保全について」『日本食品工業学会誌』Vol.26 No.9 日本食品科学工学会(1979年)、pp.391-395